転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


25 錬金術と過大評価?する大人たち



 いきなり話がとんでもない所に飛んだ。
 僕は魔道具の作り方の本を買いにきたはずなのに、エルフのお姉さんが突然僕に錬金術を進めてきたんだ。

「えっと。ぼく、いきなりそんなこといわれても、よくわかんないんだけど……」

「ああそうね、いきなりごめんなさい。錬金術と言うのは本来は薬草などからポーションとかを作る技術よ。そして先ほどから話に出ている属性魔石を作る事も出来るわ」

 いや、錬金術って物が解らないって訳じゃない。
 だって錬金術士はと言う一般生産職はドラゴン&マジックオンラインにもあったもん。

 ゲームの頃、属性魔石は普通に手に入れることが出来るものだったからそれを作る技術は無かったけど、抽出、分解、結合、付与などの技術を駆使してポーション等の薬を作ったり、武器や防具に魔力を付与して強化する一般生産職だった。

 でも一般職であるという通り、そう簡単に覚えられる技術ではないんだよね。
 もし誰でも簡単に身に付けられるのなら、そんな職業ではお金が稼げないから成立しないもん。
 だからこそ、何故こんな事をお姉さんがいきなり言い出したのかが解らなかったんだ。

「なんで? なんでぼくにれんきんじゅつをやってみないかっていうの?」

「ああそれはね、君の将来を思っての事よ」

 僕の問い掛けにエルフのお姉さんはそう答えて、視線を僕からお父さんに移し……かけたんだけど、次の瞬間何かに気付いたかのような顔をして慌ててワゴンに置いてあったファイルを手に取って目を落とした。
 そして、そのファイルをワゴンに戻してから、改めてお父さんの方へ向き直る。

「失礼しました。カールフェルトさん」

「あっ、はい」

 なるほど、さっき何か調べてたのはお父さんの名前を確認してたのか。
 そう言えば僕の名前はお父さんが呼んでたけど、お父さんの名前は僕が今まで一度も呼んでないから解らなかったんだね。

「一つお聞きします。あなたは先ほど魔法をお使いにならないと仰られましたが、では奥様が魔法をお使いに?」

「いえ、妻も魔法は使えません」

 お父さんとお母さんは僕やキャリーナ姉ちゃんと違って魔法なんて使えない。
 だから素直にそう返事したんだけど、でもこんな質問をするって事はお父さんが魔法を使えるかどうかが錬金術に関係するのかなぁ? 
 そして、そんなお父さんの返事を聞いて、エルフのお姉さんは表情を引き締めた。

「そうですか。ルディーン君ですが、彼は初歩とは言え本を読んだだけで魔道具を作成し、その上術式記号も解説を読んだだけでその仕組みを理解してしまうほど読解力が優れています。そして魔道具を作成するには体内にある魔力を操作する技術が必要不可欠なのですが、ご両親とも魔法が使えないとなると、それも彼は独学でマスターしたという事なのでしょう」

 そう言うと一度僕に視線を移し、微笑んでからもう一度お父さんに視線を戻す。
 そして静かに、説得するような口調でお姉さんは次の言葉を口にしたんだ。

「カールフェルトさんは魔法をお使いにならないと言うことですからご存じ無いかも知れませんが、魔力操作は魔法を使う為に必要な基礎技術であり、両親から習うことなくそれがおぼろげながらでも使う事ができるルディーン君は魔法使いの素養が普通の子よりも遥かに高いです。もし魔法使いにするおつもりならなるべく早いうちから魔力操作の練習をした方がいいのですが、しかしご両親が魔法を使えないとなると呪文を使った練習は難しいでしょう。ですから私は錬金術をお勧めしたいのです」

 なんと、お姉さんが錬金術を進めてきたのは、僕の魔力操作の鍛錬の為だったのか。
 確かにキャリーナ姉ちゃんがいくら教えても自力ではできなかった通り、魔力操作と言うのは本来はとても難しい物らしいんだよね。
 だから普通はできる人に教えてもらうんだけど、お父さんの様子を見てお姉さんは僕にはそんな人はいないのだろうと考えて錬金術を進めてくれたという訳だ。

「魔力操作は魔道具を作成しても上達するのですが、魔道具作成にはどうしても値段の高い魔石を必要とします。ですが錬金術の練習は魔道具と違い、魔石などの値段の高い素材を必要としません」

 お姉さんはお父さんに一生懸命錬金術の有用性を説いている。
 その真剣な眼差しを前にして、

「ぼく、もうまほうつかえるよ」

 なんて言えるはずも無く、僕は唯々黙ってお父さんとお姉さんのお話を聞いていたんだ。
 ところが、お姉さんの次の言葉を聞いて僕は色めき立った。

「錬金術の場合、道端の花から香りを抽出したり、その香りを本来は捨てる部分である食材の種などから抽出した油に結合したりするだけでも十分に練習になるのです」

 油の抽出? そうか、そう言えば菜花とかゴマじゃなくても種ならどんなものでも油が取れるんだっけ。
 グレープシードオイルなら、ワインを絞る時に雑味になるから取り除いて捨てているであろうブドウの種から取れるし、その他にも種を捨てている野菜や果物はいっぱいある。
 それらから錬金術で油を抽出すれば、あきらめていたマヨネーズが作れるかも!

 お姉さんの言葉から僕はそんな事を夢想し、そこから先の事はあまり聞いてなかった。
 だから何がどうなってそういう結論になったのかは解らないんだけど、

「解りました。確かにルディーンには初級の錬金術の本を与えるべきですね」

「解ってもらえましたか!」

 いつの間にやら、二人の間では僕に錬金術を学ばせるという話になっていた。
 まぁ、僕としては願ったり叶ったりだから良いんだけどね。

「おお、そう言えば申し遅れました。わたくし、このヒュランデル書店を営んでいる、セラフィーナ・ヒュランデルと申します」

 そして話が一段落したからなのか、お姉さんが遅ればせながら自己紹介をして頭を下げた。
 それを見たお父さんは慌てて、頭を下げて自己紹介を返す。

「はっ、ハンス・カールフェルトです」

「ルディーン、えっと、かーるふぇると? です」

 そして話の流れから僕もしなければいけないのかなぁ? なんて思ったから、お父さんの後に続いて自己紹介をしておいた。
 でもエルフのお姉さん改めヒュランデルさんは、なんで今さら自己紹介をしたんだろう? もう商談は終わりに近づいた頃なのに。

「ルディーン君は優秀ですから、きっとこれからも色々な資料を必要とする事になるでしょう。その場合は店の者にこのカードをお見せください。私に連絡が付く状況でしたら私が直接対応しますし、もし出来ないようならその時店にいるもっとも有能な者に対応させるよう、言いつけて置きますから」

 そんな事を考えていたら、ヒュランデルさんがお父さんになにやら銀色のカードをそう言って渡していた。
 どうやらあれは名刺のようなものらしくて、それを見せればヒュランデルさんが直々に相手をしてくれるんだってさ。
 でもいいのかなぁ、この店の持ち主なんでしょ? そんな偉い人をわざわざ呼び出したりしても。

「良いんですか?」

 どうやらお父さんも同じ事を考えたらしくてヒュランデルさんに同じ事を聞いたんだけど、すると彼女は驚く様な事を言い出した。
 なんと、

「先ほども申し上げましたでしょう。ルディーン君はこの先、凄く優秀な魔法使いに成長したり歴史に名が残るような魔道具を発明したりする可能性があります。いや、私の目に狂いが無ければ、きっとそうなるでしょう。私は自分の店の本を通じてルディーン君の成長に関わる事で、そんな彼をずっと見続けていきたいんですよ」

 などと言う、とんでもない事を言い出したんだ。
 そして驚く事にお父さんもその言葉を否定すること無く、うんうんと頷きながら聞いていたりする。

「そして今、彼の行く末に錬金術師と言う新たな道も開かれました。この学問もかなり奥の深いものです。伝説級の薬であるエリクサーや蘇生薬は未だ遺跡などで見つかるだけで製造法は解っておりません」

「おお、ではルディーンがその製法を見つけ出せば」

「ええ、彼は永遠に名を残す偉大な存在になるでしょう!」

 ……僕が呆けている間に、一体どんな会話が繰り広げられたのだろうか?
 何故ここまでとんでもない話になってしまったのかとても気にはなったんだけど、流石に怖くて僕は聞く事ができなかったんだ。


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